■友情、そして―

 

「よう、龍一(りゅういち)………」

「よう、進(すすむ)……どないした?顔色悪いやんけ」

「色々とあんだよ……」

「……ほっか。なんやよう知らんけど相談やったらいつでも乗ったるで」

「あぁ、サンキュ」

神沼龍一、彼は今中学3年生、2年前に神奈川から大阪へ引っ越してきた。

大谷進、龍一と3年間ずっと同じクラスで、根っからの関西人。

 

 

―――帰り道、16時00分

「そしたらな、あいつ……どした?」

「いや、なんでもねぇ……」

「(なんやねんコイツ……せっかくおもろい話したってんのに)」

 

「じゃあ、……また明日……」

「お、おぅ……」

昨日何かあったのだろうか、そんなことを考えているとマンションの目の前についていた。

「ただいまー」

「あ、進!ハガキ買ってきたやろな?」

進の母がキッチンから顔を覗かせていた。

「買ってきたわ……俺そないアホに見えるか?」

「前のテストで数学が23点やったんは誰やった?」

「………………」

彼はそっぽを向いて自分の部屋に入った。

 

 

―――17時

「(龍一に電話でもしたろ……)」

 

プーッ、プーッ

 

「(電源が入ってないやと?これは事件の予感……なんてな)」

彼は推理小説オタクだった。

 

すると家の電話が鳴った。

「なんやねん……おかんどこ行きよってん」

「もしもし……は?…………ぇ……龍一が……?わ、わかりました!」

「どないしたんや?」

玄関から飛び出した彼に買い物に行っていた母が問いかけた。

「(なんで龍一が……くそ……!!)」

声は聞こえていなかった。

 

 

―――神田総合病院 17時半

進は走って病室に向かった。

「……りゅ……龍一……ッ……」

そこには、横たわった龍一がいた。

そばで母親が椅子に座って泣いていた。

「……あぁ……進君……きてくれたのね……」

「なんで……龍一が…………うぅ……」

彼らが道で別れてから、龍一は信号を渡っていた。

横から猛スピードで乗用車が走ってきて、ぶつかったそうだ。

そのとき、信号は赤だったらしい。

「う……うぅ…………」

カーテンで隠れて見えなかったが、もう1人いた。

「ん……河上……?」

「なんでお前がおんねん……?」

「偶然!!」

河上奈織、彼女は彼らの同い年、彼らの友達だ。

「……なんで死んでしもたんや……龍一……」

「……は?何言ってんねん!龍ちゃんはまだ生きとるわ!!」

「え!?ほんなら治るねんやろなぁ!?」

「可能性は微妙だそうなの……。お医者さんももう手の施しようが無くて、後は運だって――」

母親が言った。

「龍一!!わかるか!?」

彼は半目を開いていた。

「母さん……奈織……進……ゴホッ、ゴホッ……」

「龍一、しゃべっちゃダメよ!今お医者さん呼んでくるから!」

「龍ちゃん、死なへんよなぁ……大丈夫やんな!?」

「大丈……夫……」

「龍一、なんでこんなことになったんや?」

「俺……2年の時に……付き合って……た、人に……また告白されたんだ……その……また傷つけるのが嫌で……でも今はもう好きじゃないし……」

「それで悩んでたんか……」

 

 

「う……ぐ……くそ…………!!」

 

 

彼は苦しそうに胸を押さえ、血を吐いた。

「龍ちゃん!?龍ちゃん!!!」

そこに医者が入ってきた。

「!!……くそ……ダメだ……彼はこのまま……!看護師さん!僕の部屋のベッドで気絶してお母さんを!!」

「おい!!ヤブ医者!!なんとかせぇや!!!」

「無理だよ……もう手の施しようが……」

「龍ちゃん、龍ちゃん、聞いて。もう死ぬんやったら、聞いて!」

「おい!!んなこというなや!龍一はまだ生きる!!」

彼は奈織のむなぐらを掴んだ。

「うっさいはボケ!!離せ!!」

奈織は進を払いのけ、龍一の耳元に顔を近づけた。

「……ウチ……龍ちゃんのこと大好きやで……」

「あぁ……俺もだよ……俺が今言おうとしてたことを……ハハハ……」

「なぁんや……全然知らんかった…………」

「ぐ……うぁ…………どうやら……お迎えが来たみたいだ……」

「えぇ、さよなら……また、会おな……」

「龍一……」

「あぁ、進……今までありがとうな……」

「こっちこそや。お前の分まで生きたるからな」

「母さんにも、よろしく言っといてくれ」

「あぁ。わかっとる……じゃな」

「おう……………………」

息を引き取る直前の人にしては、よく喋ることができていた……。

それは、彼の最後の力を振り絞った結果だったのだろう。

 

 

 

静かに、満足げに、彼は、人生の幕を、下ろした。

fin

 

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