■森の中の話

ある男の旅人が、荷物を載せた1匹の馬がひく小型の馬車に乗っていました。

そこは森で、左右には木々が生い茂り、砂利道は一直線に延びています。

季節はまだ冬の過ぎ去ったばかりの、どこか肌寒い春のことです。

旅人は、緑色のジャケットを着た20歳半場の青年でした。

しばらくとろとろと進んでいると、前方に木でできた小屋が現れました。

旅人はそこを通り過ぎようとしましたが、偶然にも、家の主人が狩りから帰ってきたところでした。

肩にショットガンをかけ、左手に小鹿を掴んだ老人です。

「おぉ、旅の人ですか。珍しい……お茶でもいかがですかな?」

老人がニコニコ笑いながらそう言ってきたので、

「こんにちは。いいですね。そうさせていただきます」

旅人は老人の言葉に甘え、馬を木に繋いで家の中へ入って行きました。

 

奥にキッチン、手前に机と椅子、右にベッドがありました。

もう何十年もここで暮らしていると、玄関に近い方の椅子に座った旅人にお茶を入れながら老人は言いました。

そうですか、と相槌を入れて旅人はお茶を飲みます。

「旅人さん、まだ名前を聞いていませんでしたね。私はアムルです」

「私はレイです」

そう言ったときでした。

瞬間的にレイは後ろを見ました。

そこには扉があるだけでした。

再び前を向くと、アムルが不思議そうに見ていました。

「どうかされましたか?」

「いえ、なんでもありません」

すると、レイはゆっくりと左手を腰に差してある短刀を鞘ごと掴みました。

次の瞬間、扉が勢いよく開いたかと思うと、体格のガッチリした男が入ってきました。

男は刀を振り下ろしましたが、それがわかっていたのようにレイは後ろ手にそれを短刀で受け止めました。

すかさずひじ打ちを男の腹へえぐり込ませました。

男が痛くてうずくまろうとすると、頭を椅子にぶつけて気を失ってしまいました。

「………さて、どういうつもりですか?」

「………え?あ、あの、その……」

アムルは明らかに動揺した様子でした。

「やっぱり、私の荷物を狙っていたのでしょう。あなたがここに一緒に住んでいるこの男と。悪いですが、立場は逆転です」

「は、はい?」

「ベッドにうつ伏せになってください。それと、金目の物が置いてある場所を教えてください」

 

「では、ごきげんよう」

季節はまだ冬の過ぎ去ったばかりの、どこか肌寒い春のことです。

旅人は、緑色のジャケットを着た20歳半場の青年でした。

旅人が、荷物を載せた1匹の馬がひく小型の馬車に乗っていました。

荷物には、金目の物もたくさん含まれていました。

fin

 

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