■紅葉の花束               ※紅葉=もみじ

紅葉並木が、一直線にずっと先まで続いている。
葉が風にさらわれ、紅葉の敷き詰められた道路に落ちる。
その道は乗用車1台がギリギリ通るこのできるほどのものだった。

「去年も……こんな感じだったかな……。」

木と木の間に、道路に平行に置かれたベンチに座っている、制服を着た短い黒髪の少年が、閑とした顔で呟く。

 

しばらく木々を眺める。
目の前の木には、色とりどりの花束が2,3束掛けられていた。
そして、

「彼女が―――。」
「よう。」

その瞬間、左の木から少年の声が聞こえた。
彼は茶髪で、制服を着ている。

「また彼女思い出してたのか?」

ベンチの上に乗った葉っぱを払いながら、悲しげな顔をして、茶髪の少年はたずねる。

「あぁ……。こんな感じの日だったんだ。……彼女が死んだのは。」

「…………。」

 

 

黒髪の少年と彼女は学校の帰りに、よくその並木道を歩いていた。
家までは少し遠周りだったが、それでも秋になるとここを通って帰った。
いつも通りの日だった。

「綺麗……!」

彼女の口癖だった。
今日も彼女は歩きながら言う。

「……綺麗……。」

いつもと雰囲気が違った。
彼女はもう、ここで感じていたのだろう。
死への近づきを。

「休憩しない?今日は荷物が重くてさ……。」

黒髪の少年は近くにあるベンチに向かった。
木と木の間にある、紅葉を一杯にまとったベンチだった。

「ん、座らないの?」

彼女は道の真ん中で一直線に続く道を、並木を、最期の場所を眺めていた。

「私、この景色を目に焼き付けておきたいの。」

「いつだって来れるのになんで……。」

「だって私は、もう―――。」

次の瞬間、彼女は、倒れた。

 

 

「あの花束、お前のか?」

茶髪の少年は目の前の木に立て掛けてある花束を見、怪訝そうに黒髪の少年にたずねた。

「いや、あの中に俺のはない。」

「……お前のは?」

彼は黒髪の少年の顔をのぞき込む。

「紅葉の花束、だよ。」

彼はうつむく。
風にさらわれて地面にひらひらと落ちた葉に、ポツリと、彼の涙が模様をつけた。

fin

 


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