【再会】 外は豪雨で、朝から雨は降りやまず、雷はほとんど間隔無く鳴っていた。 私はそのけたたましい音に起こされた。 ボサボサの頭をかきむしりながら、カーテンを開けて、静かに伸びをした。 しばらく暗い外を見て、テレビをつける。 暗い上に電気もついていない部屋では、テレビ画面が不気味に光を放っていた。 『八時になりました。今日は生憎の雨ですが、時計塔の鐘はしっかりと鳴り響いていますね。それでは、ニュースをお伝えします。』 カーン、カーン、という塔の鐘の音とともに、ニュース番組が始まった。 私はベッドに座って、その番組を見つめていた。 ふと、ベッドの枕元に封筒があるのを見つけた。 『Dear My......』と書かれた、茶封筒だ。 「そんな………ッ!」 私は封筒の裏の差出人を見た瞬間、着の身着のままアパートを飛び出した。 雨が降り続く坂道。 休日の朝ということもあって、住宅が立ち並ぶその道では雨の音しか聞こえなかった。 さてはて私はと言うと、幾本もの水色のラインが入ったパジャマ姿という状態で、その坂道をただひたすらに走り続けていた。 間違いない、あれは彼だ、という確信を抱きながら、傘も差さずに疾走する私。 他人から見れば笑われるような格好だろう。 でも、私は形振り構っている場合ではない。 そう、彼が帰ってきたのだ。 この三年間、行方不明だった彼が。 やがて道は平坦になり、街の中心部が近くなった。 と同時に、人通りも多くなったが、気にせず私は走る。 瞳はしっかりと、街の中心である時計塔を見つめていた。 やがて、時計塔の目の前にたどり着いた。 空に高くそびえ立つ、直方体の時計塔で、四面全てに時計は存在する。 茶色いレンガ造りのがっしりとした塔で、どこか威厳が感じられる。 塔の中への扉をくぐると、四面の壁に沿って螺旋状の階段があり、展望台へと続く。 時計の指針の回る裏にはレンガではなくガラスがあるため、そこから街を見渡すことができる。 展望台も塔の中にあるもので、上を見上げれば、時計を動かす機械が、ガタンガタンと音を立てて動いている。 休日の朝からわざわざ地元の見慣れた景色を見に来る人などいるわけもなく、塔には私の足音と機械の音だけが響いていた。 びしょ濡れのパジャマ姿で、水を滴らせながら、残った体力を振り絞って階段を上った。 期待を胸一杯に抱えて、一歩一歩着実に上る。 「よお、遅かったな」 上から声が聞こえた。聞きなれた、軽い声だ。 彼がいなくなって三年、それでも、声を覚えていた。 「遅かったなじゃ……ないって……」 体力の限界が近い状態で、喘ぎ喘ぎにしか言葉を発することができなかった。 そして、階段を上りきったと同時に、私と彼の目が合った。 彼は、ガラスを背にして、左手をポケットに突っ込んで、キザなシーフの如く微笑んでいた。 「あんたね……今まで私がどれだけあんたを――― 「ただいま」 私の言葉を遮って、彼はその言葉を投げかけた。 私の顔は自然と笑顔になって――― 「おかえり」 ―――返事をした。 「どこに行ってたの、この三年間?心配してたら突然帰ってきて……」 「ま、色々あってな」 彼は私に背を向けて、ガラスに向かって喋っていた。 「色々って………で、これからどうする気?」 「それなんだが、俺のところへ来ないか?」 私は驚いて、思わず目を見開いた。 「んな……わ、私には仕事とか家とか色々あって……い…いつ?」 「今すぐに」 またも驚きの発言。 でも、嬉しさを感じた。 「そんな……急に――― 「早くしないと、もうすぐ時間だ」 「な、何?何のじか……?」 その瞬間、彼が歩き始めた。 ガラスに向かって、一歩ずつ。 彼はガラスを、吸い込まれるように通り抜け、完全に体は外に出た。 が、彼は浮いている。 「帰る時間、さ」 その言葉とともに、彼は振り返る。 やはり、微笑んでいた。 「俺は今も昔も、お前のことが――― 私はそこからの彼の声が聞こえなかった――覚悟が決まったから。 一気に走って、彼へと向けて、ガラスに突っ込んだ。 体がするりとガラスを抜け、やがて私は彼に抱きついた。 「私も、私も――― 鐘の音が街に響き渡り……私の記憶はここで途切れている。